〜パリ アン・サン・ピエール美術館〜
「poeppe」展の感想文。
或いは四谷シモン礼賛

 
パリの人形屋に飾られ た
シモン氏の「pouppe」展ポスター

モンマントルにあるパリ市立の新しい美術館、アン・サン・ピエールで、
世界の作家の人形、写真、イラストレーション等を集めた
大規模な展覧会「POUPPE」が、今年の一月十九日〜七月二十五日まで
開催されている。

おりしも四年振りにパリに行ける私は、
行かずにはおれない。
しかし、わずかな情報をネットで手に入れたのみで、
電話番号が書いてはあるものの、電話で話せるほど達者でない語学力では、
ほぼ無意味。こんなことで辿り着けるのだろうか??

とにかく久々のパリにつき、馴染みの人形屋を訪ねる。
駅からの道中も風情があってお気に入りのお店。
遠目にみえてきた。
と、外観がすっかり小綺麗になってる!
しかもドアには四谷シモン氏の少女人形のポスターが!
よく見ると、「POUPPE」の文字。
これだく大きく広告が出されているなら、辿り着けそう!と確信する。
しかし、シモン氏の少女人形のポスターは、
パリの人形屋の店先になんともミスマッチそうなのにしっくりきている。
世界の作家の中からポスターに選ばれたのも納得。
選んだパリの感性の鋭さも、シモン氏の人形のすばらしさにも、
どちらにも脱帽!といった気分でした。
さて。そんな風に気分を盛り上げて、最終日にいよいよ「POUPPE」へ。

映画「アメリ」の舞台にもなった教会の麓。
早めに出掛けて立ち寄った早朝の教会は、
パリ市内を天から包み込むように建てられていて、
その建物の抱擁力に、神に包まれているかのような錯覚を起こす。

そして、「POUPPE」展へ。
ガラス張で中に簡易なカフェが見える建物がそこだとは思わず、
少しうろうろ...思い切って入ると、物販コーナーがあるので
ここでいいのね、と安心した。

下に暗く密閉された空間があり、そこに風土人形や呪詛人形、
あまり価値のなさそうな粗雑なアンティークドールなどが並んでいる。
日本の展覧会でこれらをみる場合、どれもどうでもいい場合が多い
しかし、パリともなると古い、意味ある、
だけでなく、それらもしっかり人形のよさをもったものばかりでとても素敵だった。
どの子も哀しく、愛しい。

さすがはお仏蘭西・・・・。
と溜息まじりに一階を後にする。

二階に作家人形があるからだ。
二階は一階とうってかわって、ガラス張の建物に入る太陽の光をいっぱいに浴びて、
現代作家の人形たちが並んでる。

こちらも「世界」を感じる感覚のスケールの大きさに頷く。
日本の大規模なものと比べても、作品のバラエティと、あと何か空気が違う。
気候が違うからかもしれないが、空気が軽い。
人形には何か(魂のような)がある、
と考える日本と、
あくまで物質として捕らえる西洋人の
考え方のギャップにもマッチしていて面白いな、と思った。
しかし、前日の、ポンピドゥーのベルメールの人形をみた衝撃後だったので、
そこで改めてシモン氏の人形の良さをつくづく実感した、
というのが一番強い印象だった。
ベルメールの精神がエロティシズムが人形という意味でもあり、
シモン氏の美学である「重くない」人形の、
そのよさが、日本でみるのと違った感覚で受け止められた。

決してシモン氏が西洋的だといいたいわけではない。
日本の作家がありがちなとってつけたように着物を着せられた人形より、
ずっと日本の感覚、美的感覚は持っている。
もちろん日本でみても、すばらしい作品だと、何度も溜息をついた。

ただ、パリでみると、また違ったよさで見えた。
私にはその違ったよさを言葉で説明できないが、
「もし、人形美術年譜を作るならベルメールの系譜に名前を書けるのは
シモン氏だけだな」
と、強く思った。

年譜を作る予定もなければ、何か評論を書けるような人間ではないくせに、
妙に心強く確信したのは、
きっと前日みたベルメールの人形とシモン氏の人形が、
私に与えた魅力の力強さのためだろう。

すばらしい展覧会に行くことが出来たことと
新たな人形の魅力を見つけられたことを
とても嬉しく、ありがたく思った。